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金ケ崎町の英語教育の成功要因とは:
「学び状況診断※」からの示唆

本記事は、2023年7月時点の取材・調査内容に基づく過去の取り組み事例です。
記事内に記載されている役職名や名称、数値や状況等は、現在のものとは異なる場合がございますのでご了承ください。

【背景】全国平均を上回る英語学習意欲と学力の秘訣

岩手県金ケ崎町は、2022年度に実施された「児童生徒英語教育学習状況調査(現在は『学び状況診断』)」(小学校第6学年および中学校第3学年約10,000人を対象に実施)において、児童生徒の英語学習に対する意識アンケート結果では全国平均79.5%を大きく上回る95.0%という結果で、小学校・中学校ともに英語に対する肯定的な回答が90%を超えました。英語テストにおいても、小学校のリスニングテスト16問の平均正答率は69.7%、同じく中学校のリスニングテスト15問では55.3%となりました。リーディングテスト20問では金ケ崎町の平均正答率は56.5%で、全国平均55.4%を上回る結果となりました。

同町では「まちづくりは人づくり」を基本理念に掲げ、「英語教育の町金ケ崎」の推進に向け、グローバルな視点をもって世界に貢献する人材育成に取り組んでいます。10年以上前から幼保・小・中連携の英語教育を実践し続けてきました。金ケ崎町教育委員会を訪問すると、連携体制の強い英語教育が行われていることがわかりました。幼児期から英語に親しみ、コミュニケーション能力の豊かな児童生徒を育てるため、現行の学習指導要領施行後も、この連携体制を維持・発展させてきたことが、今回の好結果につながっています。

金ケ崎町における児童生徒の英語学習に対する意識(弊社「2022年度 児童生徒英語学習状況調査 [現:学び状況診断]」より)

10年以上続く一貫した教育体制と校種間交流

1. 幼保から積極的にALTを活用し、校種間のギャップを減らす

金ケ崎町では現在、町の英語指導員1名とインタラック派遣ALT(町内ではELT: English Language Teacherと称されています)3名を、町立幼稚園3園・保育園3園、小学校5校、中学校1校のすべてに配置しています。特に幼稚園、保育園では計画的・継続的に英語活動を位置づけ、日常的な遊びや生活の中で英語との触れ合いを楽しめるようにしています。指導はALT(T1)と幼稚園教諭や保育士(T2)が事前に打ち合わせをしながら一緒に進めるのが特徴です。英語のあいさつや歌、リズム遊び、英語の絵本の読み聞かせなどをベースにした指導が中心で、各園の実態、年齢に合わせて1回の活動時間の目安も決めています。

小学校では、すべての英語の授業を学級担任(T1)とALT(T2)がチーム・ティーチングで指導しています。学級担任が主導する授業をALTが支援する形です。それぞれの良さや強みを活かして授業に臨むため、授業の前後、また週の中で定期的に打ち合わせをして準備します。子どもたちは英語を楽しむだけでなく、学年があがるにつれ、英語で思いを伝え合い、コミュニケーションを意識した学びに移行していきます。

金ケ崎小学校3年生 英語の授業風景

金ケ崎町ではALTが幼保・小・中を兼 務していることから、幼保でのALTの存在は小学校低・中学年の外国語活動、高学年の外国語への重要な架け橋となります。また、中学校でも小学校の時に習ったALTが授業にいることで、生徒は積極的にコミュニケーションを図るようになります。子どもたちは「いつものALTの先生だ 」と認識でき、校種の壁を感じることなく英語に慣れ親しむことができているのです。また、町の英語指導員を中心として、3名のALTは、毎週1回のミーティングを行い、指導方法について研修を行い、指導力の向上を図っています。今回の調査で、同町では小学校と中学校における学習意欲の「ギャップ」が小さいことは象徴的なデータと言えます。例えば、「英語の勉強は楽しい」「これからも英語を学び続けたい」に対して多くの自治体では小・中の意欲に10%~20%の開きがあるのですが、同町の場合はわずか約3%にとどまっていました。

2. 校種間をつなぐ交流と実践的なイベントの開催

町が主催する「BIG3行事」と呼ぶ英語教育のイベントは、子どもたちに英語を楽しく学び合う機会を提供しています。小学3~6年生を対象とした「グローバル・キャラバン」は、夏休みに実施する英語教室です。中学3年生を対象とした「イングリッシュ道場」は、9月に開催され、ALTとともにオールイングリッシュで丸1日を過ごすイベントです。英検3級程度のインタビューや発表に加え、歌やゲームなどを通じて4技能を高めます。これらの活動は、より実践的な英語運用力を向上させるとともに、受験にもつながる活動となっています。

「ティーチャー・イングリッシュ・ワークショップ」は、希望する小学校教員を対象にした授業づくりのワークショップです。英語が苦手な先生も参加し、単元構想や活動をグループで考え、授業の情報共有を通じて授業力を向上させています。また、先生方の授業力向上のための授業研究会や授業参観、学校間の交流授業も計画的に実施されています。特に昨年度から「小6・中1連携プロジェクト」として、学年最後の単元を小中間で交流授業を始めました。小学6年生は中学1年生へ将来の夢や中学校での目標を、中学1年生は小学6年生へ中学校生活を紹介するスピーチ発表を行います。互いに英語でやり取りし、より良い発表を目指すことで、さらなる英語学習への意欲を高め合っているのです。

3. 町全体での継続的な指導体制の整備

金ケ崎町の充実した英語教育の成果は、何より現場の先生方の間で実感されています。金ケ崎小学校の最上啓校長は、次のように述べています。「授業が始まる際の英語でのスモールトークにおいて、子どもたちは考えて返答できるようになります。3年生で外国語活動を始めて数カ月でこれができるのは素晴らしいことです。このような積み重ねの結果、6年生になると自分の考えを1分間のスピーチで表現できるようになるのです。ALTが必ず授業に参加してくれることは、小学校の担任にとっては本当に心強いです。」

(2023年当時)金ケ崎小学校 最上啓 校長

教育の成果は長期的な視点で評価

当時、金ケ崎町教育委員会で主任指導主事として一緒に取り組んでくださった石亀典子先生は、その時のリンク・インタラック「児童生徒英語学習状況調査」の結果を受け、次のように話しています。
「幼稚園・保育園から中学校までの10年間、途切れることなくALTを配置した英語教育を行った最初の卒業生が、昨年度の中学3年生でした。10年間に渡り、子どもたちは実際の英語に触れる機会を得ることで英語学習への意欲を高めました。中学3年を終える頃には、英検3級程度の力を持つ生徒が半数以上に達しました。これは、日本人教員とALTが英語を使いながらコミュニケーションに重点を置いた授業を進めたことの成果です。」

英語が好きで、英語が得意、という気持ちを保ったまま高校に進学すれば、その後の学習や進路、就職の幅も広がるでしょう。AIなどの新技術が急速に普及し、アフターコロナで国際交流も復活の兆しを見せる中、未来を生きる子どもたちは「学び続ける力」がますます重要になります。幼児期から英語を楽しく学び続ける経験は、子どもたちの「生きる力」にも直結しているのです。

(2023年当時)金ケ崎町教育委員会 石亀典子 主任指導主事

【まとめ】
敬愛大学  国際学部国際学科教授・英語教育開発センター長、明治大学  文学部(教職課程)兼任講師
向後秀明 先生のコメント

英語教育における校種間連携の重要性は誰もが認めるところですが、全国的には実質的な取組がなかなか進んでいないようです。そのような現状にあって、小・中連携を超えた金ケ崎町の幼保・小・中連携事業は画期的であり、大きな成果をもたらしています。特に、子どもたちがこれからも英語学習を続け、英語を使って仕事もしてみたいという気持ちが強いことは、農業や工業を始め多様な産業が盛んな同町が、今後それらの産業をグローバルな視点で一層充実・発展させていくための人材育成という点からも非常に重要であると思います。

英語が使えるようになるかどうかは、英語に触れる量(exposure)と実際に英語を使う量(experience)にほぼ比例します。金ケ崎町ではALTの活用によって園児の時からこれら2つの機会が豊富に与えられ、英語に慣れ親しむことが可能になっています。また、学習する児童生徒だけでなく、指導する側の先生方も、校種を超えた縦のつながりの中で学び合う体制が取られています。取材を含む今回の調査結果は、早い段階からALTを配置して校種間で連携した教育をすることによって、子どもたちの英語や英語学習に対する意欲、さらには英語力に大きな影響を与え得ることを示しており、他の自治体にとっても大いに参考になるものと考えられます。

※2023年当時は「児童生徒英語教育学習状況調査」

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