取り組みの背景
公益財団法人SBI子ども希望財団は、虐待や家庭の事情により児童養護施設で暮らす子どもたちの自立を支援してきた。
同財団が10年以上続けてきた「イングリッシュキャンプ」。今回は、SBI子ども希望財団事務局長の加賀屋慶之氏に、本取り組みの背景やそこに込められた想い、キャンプで生まれる数々の物語について、お話を伺った。
「コミュニケーションの喜び」を届けるために
「施設にいる間に、人とコミュニケーションすることの喜びや楽しさ、そして人と接することへの抵抗感をなくしてあげられないか」。そう考えた同財団は、英語に触れる経験がコミュニケーション力を育む入り口になると捉え、2014年に英語を切り口にした支援プログラムに着手した。
2014年に始まった「SBI英語教育支援プログラム」では、英語教室に通う費用を3年間支援したり、幼児向けに音声CD付きの英会話カルタを配布したりと、複数の取り組みを展開してきた。英会話カルタは全国600施設のうち400近い施設に広まっているという。
ただ、英語教室に通うことに加えて、英語へのモチベーションを継続するための楽しいイベントが必要ではないか……そんな問いも生まれた。そこで、夏休みを利用してプログラム参加中の子どもたちに声をかけ、キャンプを開いたのが本取り組みの始まりだった。
テント泊のキャンプから、都市型プログラムへ
最初のキャンプは2014年、別団体の協力のもと、秩父の山でテントを張って行われた。だが地方で暮らす子どもたちにとって、自然の中でのキャンプは目新しいものではなかった。「都会でやろう」という判断のもと、2016年からリンク・インタラックと組んでプログラムを刷新。全国の施設から子どもたちを集め、都内のユースホステルを拠点にする、今のスタイルが生まれた。以来10年、コロナ禍による2年間の中断を挟みながらも、キャンプは形を変えながら続いてきた。
![]()
イングリッシュキャンプの朝の様子。
ウォーミングアップのヨガ練習を子どもたちとALTの全員で行っている。
選ばれたALTたちが引き出す、子どもたちのパワー
キャンプの核となっているのが、ALTたちとの交流だ。SBI子ども希望財団の加賀屋事務局長は「リンク・インタラックのALTの先生は非常にレベルの高い、選抜された方たちです」と評価する。「リンク・インタラックのALTはとてもストレートに、明るく楽しく子どもたちに接してくれます」。
初日こそ戸惑う子どもたちも、1〜2時間もすれば、どんどんと打ち解けていくという。
ALTたちからは、学校行事で出会う子どもたちと比べても「施設の子どもたちが向かってくるパワーがすごい」という声が上がる。加賀屋事務局長は、普段から周囲を思いやりながら過ごしている子どもたちが、「この先生となら」と思えた瞬間に内に秘めた力を発揮できる場になっているのではないかと見る。
「大変だけれど、非常に印象に残るキャンプになる」とALTたちは語っているという。最終日のお別れの場面で、ALTがチームごとに子どもたちへメッセージを伝える際、ALTが涙を見せることもあるそうだ。
![]()
イングリッシュキャンプ2日目のアクティビティの様子。
各チーム自分たちで戦略を立て、カップスタックへ挑戦している。
「10年」を支えた、地道な運営の工夫
イングリッシュキャンプの運営については、全国から子どもたちを集めるからこその細やかな調整が欠かせなかったという。交通費の精算や移動手段の確認に加え、台風で帰れなくなったこともあった。宿泊先での部屋割りにも気を配っている。
小学生から高校生までという幅広い年齢層が一つのプログラムに参加するが、「子どもたちはみんな優しく、お兄ちゃんお姉ちゃんが小さい子の面倒を見てくれる」ため、年齢差そのものが壁になることは少ないという。それでもチーム編成の際は、リンク・インタラックと相談しながら年齢や男女比のバランスを考えている。キャンプの開催期間は2泊3日。ワールドツアーやアクティビティなど、様々な体感型のコンテンツを通じて、子どもたちは出身施設の垣根を越えて「チーム」になっていく。
「あの子、こんな風に笑うんだ」
10年間で数え切れないほどのエピソードが積み重なってきた。以前のキャンプでは、修了式で⾼校⽣の男の⼦が⾃主的にALTへ感謝のスピーチを届けることもあった。一緒に参加した施設の職員からは、「あの子がこんな風に笑うのを見たことがなかった」「すごく心配していたけれど、壇上に上がって声を出して喋っていた」といった声が聞かれたという。
普段の施設では見せない表情を目にした職員の、子どもを見る目そのものが変わっていく。「実はこういう可能性があったんだ、という発見が、戻った後の関わり方まで変えていく。3日間という短い時間ですが、大きな意義があると思います」。(加賀屋事務局長)
![]()
イングリッシュキャンプ3日目の様子。
子どもたちがお互いのTシャツに真剣にメッセージやサインを書いている。
ALTとの空間は「本音」を言える場所
なぜ子どもたちは、初めて会うALTを前に、これほど自分を表現できるのか。加賀屋事務局長によれば、施設で暮らす子どもたちには、親のことが頭から離れない子も少なくないという。「お⽗さんお⺟さんはどうしているだろう、自分が悪かったのかな、と。でも甘えられる相手がいない。集団生活の中では、本音を話す機会も限られる。だからこそ、ALTを前にすると、素の自分が出てくるのではないかなと思います」。「ストレートに向き合い、受け止めてくれるからこそ、子どもたちの思いが顔を出し、素直に自分を表現できる機会になっているのだと思います」。
キャンプ後には、「英語への学習意欲が高まった」「英語教室での姿勢が変わった」といった変化に加え、「お兄ちゃんお姉ちゃんが施設に戻って優しくなった気がする」という声も届いている。
キャンプのその先へ ―SBI海外体験プログラムという新たな一歩
キャンプが終わって帰ると、みんな「来年も来たい」と言ってくれるという。そこでイングリッシュキャンプの延長線上で2024年に始まったのが、高校生を対象にした「SBI海外体験プログラム」だ。
アメリカとオーストラリアでのホームステイを軸にした本プログラムには、1年目に11人、2年目に18人、2026年は15人が参加した。幼少期の英会話カルタや英語学習、キャンプでの経験を経て、高校生になって海外体験プログラムに挑戦する。そんなステップアップの流れが、少しずつ形になってきている。
子どもたちの可能性を、大人が決めつけない
最後に、同じように厳しい背景を抱える子どもたちを支えようとする団体や関係者へ、加賀屋事務局長はこう言葉を寄せた。「子どもたちは無限の可能性を持っています。それを大人の手で潰さないようにしたい。『あの子には無理かもしれない…』と決めつけるのではなく、やらせてみたら意外とできたり、変わったりする。子どもたちの可能性を伸ばしてあげられるような支援をこれからもしていただけたらと思います」。
心に蒔かれた種が芽吹く時期は、子どもによって違う。それでも、確かに種は蒔かれ続けている。
