本記事は、2024年6月時点の取材・調査内容に基づく過去の取り組み事例です。
記事内に記載されている役職名や名称、数値や状況等は、現在のものとは異なる場合がございますのでご了承ください。
本取り組み事例の概要
リンク・インタラックは、町田市教育委員会、町田市立金井中学校の栗橋ゆかり先生(当時)にご協力をいただき、英語 “ワクワク授業” 研究所 代表、元関西外国語大学教授、(公財)日本英語検定協会派遣講師、(株)リンク・インタラック Executive Consultant の中嶋洋一先生監修のもと、「ALTとのティームティーチングをどのように質的に高めていけるのか」をテーマに、「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善に向けた共同研究を行いました。
その結果、ALTとの理想的なティームティーチングを通して、生徒の主体性を高める指導、即興のやり取りにつながる指導、SDGsの内容を深める指導を実現し、生徒の主体性や協働力、「話すこと(やり取り・発表)」の力が大きく向上しました。本記事では、研究の概要とその成果をお伝えします。
「話すこと」に課題が多い中学生の英語 ー産学官で授業改善の共同研究へー
令和5年度の全国学力・学習状況調査では、4年ぶりに中学校で「英語」が出題されました。「話すこと」では2つの大問が出題されました。そのうち、大問2「説明を聞いて、自分の考えとその理由を話す」における全国平均正答率は4.2%、無回答率は18.8%と低調な結果となってしまいました。問題は、環境問題についての英語のプレゼンテーションを聞き、話し手の意見に対する自分の考えとその理由を話すものでしたが、プレゼンテーションの感想だけを話すにとどまってしまう生徒が多かったようです。
「話すこと」の力を伸ばすためには、「主体的・対話的で深い学び」を実現し、生徒が自分の気持ちや理由を明確にしながら伝える言語活動が重要です。
しかし、そのための具体的な指導方法の先行実践はまだ少なく、現場での推進には多くの課題がありました。そこで、中嶋洋一先生の監修で、2023年10月〜2024年3月の半年間、町田市立金井中学校の中学3年生を対象に、ALTとのティームティーチングの質を高めるための共同研究を実施しました。
教師の「意識改革」が授業を変える第一歩
取り組みの第一歩は、教員が「何をゴールにするのか」を明確にし、自身の授業を見つめ直すことでした。最初の授業を参観された中嶋先生は、「生徒たちは大きな声で発表ができる。積極性もあるが、残念ながら話されている内容が薄く、話題を広げることができていない」という実態から、そうなってしまう理由を次のように分析しました。
・単元や各時間で「何をゴールにするのか」を明確にできていなかったため、生徒が学びの見通しが持ちにくい。
・ALTには直前に授業内容のみを伝えていたため、ALTもゴールを理解できないまま授業に臨んでいる。
中嶋先生は、栗橋先生の生徒の見取りや、授業展開の悩み、さらには市内全体のALT活用の課題を丁寧に引き出していきました。対話を通じ、栗橋先生は「教師が自分の授業に対して、もっとよくするにはどうすればいいかという意識を持ち続けることが大切。自ら学びに行かなければ」とハッとしたそうです。この栗橋先生の「自己理解」が授業改善の第一歩となりました。
思考ツールを導入し、生徒の思考整理と発話内容を豊かにする提案
その上で、中嶋先生は、授業に2つの思考ツール「マッピング」と「マンダラート」を組み合わせた新しい発想の「階層式マッピング」で、生徒が自分の考えを整理し、発話内容を豊かにする指導を提案されました。
「マッピング」は、キーワードとなる言葉から、関連する情報をストーリーのようにつなげていきます。これにより、生徒は情報を論理的につなげられるようになります。「マンダラート」は9つのマスの中心に書かれたテーマから、周りに関連することを連想していきます。これに慣れると、生徒は発想が豊かになっていきます。この2つを組み合わせることで、チーム(4人)が、中心テーマ(たとえばSDGs)から発想したことをつなぎ、簡単にスピーチやプレゼンテーションを組み立てることができます。
栗橋先生とALTが、「階層式マッピング」を使ってやり取りするモデルを示し、生徒も実践することで、イメージが膨らんだ生徒の発話の質や量がみるみる高まっていきました。
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栗橋先生とALTが「マンダラート」を使ってデモンストレーションを見せる様子
また、「階層式マッピング」は、ALTとのティームティーチングの質そのものを改善するためにも役立ちました。それを使ってALTとお互いの考えやゴールを共有することで、次の授業作りにもつながり、ALTが生き生きと授業に参画するようになりました。中嶋先生も「ALTと年度初めに育てたい生徒像と全体構想を共有しておくことで、授業の発想が広がり面白くなっていきます。そのためにも思考ツールは役に立ちます」と話しています。
生徒が話したいテーマで学習意欲が向上
英語で話すテーマを生徒自身が選ぶことで、個々の学習意欲が高まりました。以前は教師がテーマを決めていましたが、これでは生徒の発話が単語の羅列にとどまり、深い対話が生まれませんでした。そこで、生徒に話したいテーマをアンケートで尋ねたところ、教師の与えるテーマと生徒の希望にギャップがあることが分かりました。生徒が 話したいテーマを選ぶと、伝えたい内容が自分ごとになり、発話に対する意欲も増し、深みのあるやり取りが可能になっていきました。また、「自己評価(自己申告)シート」を導入し、生徒自身が「本時のねらい」から繋げて自分でゴールを設定するようにしました。これにより、生徒が授業のゴールを意識して学習に取り組むようになりました。栗橋先生も「それまでとまったく違う50分になった 」とその効果を振り返っています。
生徒用のCan-Doリストを配ってゴールを共有
3学期の最初に「生徒用のCan-Doリスト」を配布し、年度末までのゴールの見通しを共有することにしました。これまでは教師用のCan-Doリストを作成していたものの、それは教師止まりでした。そのため、生徒はゴールと具体的なつながりを意識しないまま授業に臨んでいました。しかし、この「生徒用Can-Doリスト」を作成、共有したことで、常にゴールを意識した授業が展開されるようになり、生徒たちの達成感と自己肯定感が高まりました。
今回は、10月からの共同研究であったことから、効果を実感した栗橋先生は、「次年度は3月のうちに作成し、4月に生徒と共有しておきたい」と話しています。
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生徒用Can-Doリスト
全員が参画する授業の実現と「話せる!」という自信
発表に向けたグループ活動で「階層式マッピング」を取り入れた時、驚くべき効果が表れました。これまでのグループ・プレゼンの活動では、英語が得意な生徒がたくさん話したり、苦手な生徒が1〜2文程度を暗記して発表したりすることがありました。しかし、「階層式マッピング」を使うことで、チームのメンバー全員がイメージを共有し、それぞれの担当を責任を持って作り上げることができました。
今回は、「住みよい世界にするためにはどうしたらよいか」といった課題に対し、原因や解決策を分担し、一人一人が責任を持って考え、それをチームで1つのストーリーにまとめました。プレゼンに必要な写真を入れたスライドも自分たちで作成し、それをリモコンで操作しながら発表をしました。さらには、各チームのプレゼン後に英語で即興の質疑応答も行われました。全員が参画する授業(「主体的・対話的で深い学び」)が実現したのです。

「階層式マッピング」のイメージ
グループ発表会に向けて、栗橋先生とALTが生徒にゴールを明確に伝えたことで、生徒は主体的に取り組むようになりました。授業の回数が限られていたALTは、ビデオ・メッセージで、階層式マッピングを活用したテーマの深掘りの仕方や、より良いプレゼンにするアドバイスをしました。中間指導やALTからのフィードバックを元に、生徒たちは協力して準備を進めました。受験の準備で忙しいにもかかわらず、多くの生徒たちには積極的に連絡を取り合い、発表内容を仕上げようとする姿勢が見られました。
やがて、相互評価で良かったところを伝えるだけでなく、改善点もしっかりと伝え合うようになり、お互いに「ありがとう」という感謝の言葉が行きかう、温もりのある授業になっていきました。「対話的で深い学び」をベースとして行われた授業を通して、生徒は「さらに仲良くなれた」と言い、栗橋先生は「人を育てることができた」と振り返っています。
3年生最後の授業で、生徒たちは「住みよい世界にするために自分たちにできること」について、自分達で考えたテーマでプラスチックごみの削減、ジェンダー問題、動物保護などの問題について、スライドや実物を見せながら、いきいきと発表しました。質疑応答も活発に行われ、中嶋先生は「まさに、文部科学省が目指している、質の高い授業だった」と高く評価しました。
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グループ発表会の様子
生徒の声「順序立てて話せるようになった」
事後のアンケートから、9割の生徒たちが「以前は、英文を組み立てるのが難しかったが、マッピングを使うことで、話が途切れず盛り上がった」、「次に話すことが思い浮かび、順序立てて話せるようになった」のように、即興のやり取りができるようになった、まとまったことを話すことに自信がついたと述べています。
また、多くの生徒たちから、思考ツールはプレゼンでテーマを深掘りする際にも役立てたい、さらには高校での「総合的な探究の時間」やディベート、「探究の学習」など英語以外の教科や活動にも役立ちそう、といった嬉々とした声が聞かれました。この主体的に学習に取り組もうとする姿勢は、「わかる授業」ではなく、今回のように「できた!を実感する授業」「仲間と協働する授業」によって育まれたのではないかと考えられます。
